社会学者・谷原つかささん寄稿
10月27日に投開票された2024年衆議院選挙、この原稿を書いている途中におこなわれた兵庫県知事選挙は様々な話題を呼びましたが、ネット世論研究者からしてもエポックメイキングなものでした。
筆者は、20年のコロナ禍においてSNS上に偽・誤情報が蔓延(まんえん)したのをきっかけに、現在進行形で起こっている問題に挑める点に引かれてSNSの研究を始めました。同時に、SNS上で様々な意見や情報が飛び交う政治コミュニケーションにも関心を持つようになりました。あまり弁が立つほうではないので、収集したデータや資料を粛々と分析する実証的な研究を軸に据えています。
衆院選の3カ月前に『「ネット世論」の社会学――データ分析が解き明かす「偏り」の正体』という本を出版しました。21年衆院選、22年参院選、23年大阪府知事選について、ネット世論に関するデータを絡めて分析。これまでの選挙において、「ネット世論」はあまり選挙結果のバロメーターとはならない、それはなぜか、についてデータを駆使して探求しました。
しかし、一連の選挙において、潮目は変わったように思います。正直な話、拙著を今読むと隔世の感があります。コンテンツを発信するネットメディアと、それへのリアクションである「ネット世論」が、選挙結果に少なからず影響を及ぼすようになりました。
そこで本稿では、「ネット世論」の現在の姿を、衆院選におけるデータをもとに実証的に明らかにしていこうと思います。
X上の世論と選挙結果
今回の衆院選では、与党の自民党が大きく議席を減らし、野党の国民民主党が大きく躍進しました。X上の世論はどうだったか。【図表1】をご覧ください。
グラフは選挙期間終盤のX上における各政党に対する世論の状況を示しています。ただし、データの限界には留意してください。Xのタイムラインを観察できるYahoo!リアルタイム検索の「話題順」で上位200に上がったポスト(投稿)のみを分析対象としています(「話題順」がどんなアルゴリズムに基づいているかは不明ですが、おそらくエンゲージメントの大きさやアカウントの影響力が考慮されているかと思います。そのため、同一アカウントによる投稿が多くなっています)。ポスト数はリポスト数を合算して処理。検索ワードは、各政党名や略称のうち、最もポスト数の多いものを採用しました。ラベリングは筆者が目視で行いました。
目につくのは、与党の自民党及び公明党へのネガティブなポストが突出して多い点です。野党第1党の立憲民主党がそれに続きます。他方、肯定的な意見が多いのは、国民民主党、れいわ新選組、参政党、日本保守党です。
次に、比例代表における各党の得票数をご覧ください=【図表2】。前回の衆院選と比較すると、国民民主党、れいわ新選組は票を伸ばしていますが、これはX上で肯定的な意見が多かった政党と重なります(参政党、日本保守党は今回が初めての衆院選です)。得票を大きく減らした自民党と公明党は、X上でネガティブな意見が多かった政党です。
次に両者の関係を統計的に分析してみましょう。
【図表3】は相関分析という…